2015/01/30

旅は道連れ自転車で〜南米最南端編(前)〜


◆第1〜8話(全16話)◆



◆登場人物◆

Pablo.O : from Espanol 39歳
この物語の主役・リーダー的存在。


Janita.L : from Chile 24歳
Pablo達に誘われて急遽、自転車旅行に初挑戦。


Oriol.A : from Espanol 32歳
サッカー好き、女好き。
趣味:サッカーユニフォームコレクション


Tomoki K : from Japan 31歳
サッカー好き、女好き
趣味:サッカーユニフォームコレクション(旅行費用に充てる為、大半を売ることに)


Shizuka K : from Japan 28歳
以前からアウストラル街道を自転車で駆け抜けることを夢見ていた運動音痴な女の子。

◆ここまでのあらすじ◆
人形劇を披露しながら、南米を自転車で巡るPabloの旅も残すところあと僅か。2月2日の自分の誕生日を、南米最南端の地ウシュアイアにて祝おうと進む道中、あれよあれよと仲間は増えるわ予想外の出来事は起こるわ…。
一行は果たして無事にFIN DEL MUNDO(世界の果て)に辿り着くことは出来るのか!?
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◎第1話「イチ・日産・incluso〜!」
1月22日【Puerto Natales - Lago Diana付近】44.65km
Pablo「いいかいJanita。『uno, dos, tres,vamos〜! 』を日本語では『いち・に・さん・いくぞ〜!』って言うんだ。車のNISSANってあるだろ。あれを『dos, tres』に当てはめて、『イクゾー』は、単語の『incluso』が近いよ。」

というわけで「イチ・日産・incluso〜!」と、声を合わせテンションも高くPuelto Nataresを出発する一行の運命や如何に…。




◎第2話「お尻が痛いなら」
1月23日【Lago Diana - Villa Tehuelches】104.08km 
Pablo「Janita、かなり疲れてるな〜」
Tomoki「この2日目にして、100km以上走っているからね。それに、お尻がかなり痛いって言っているね。サドルが合っていないのかもしれない…」
Pablo「ふむ…ちょっと一発かまして、元気になってもらおうぜ。」

Pablo&Tomoki「Janita!元気を出すんだ! こうすればお尻も、問題無いのだ〜!!!」




◎第3話 ※無題・写真のみ
1月24日【Villa Tehuelches - Chabunco】80.83km






◎第4話「明日はお休みです」
1月25日【Chabunco - Punta Arenas】31.32km
Punta Arenasに到着するも、今日Tierra del Fuegoに向かう船は無く、2日後までこの街でお休みすることになりましたとさ。




◎第5話「真実を告げなさい」
1月27日【Punta Arenas - Bersovio El Covacio】55.03km



「僕は怒っている。君は本当のことを言わなければならない」
PabloがShizukaにそう言うと、彼女は涙を堪えることが出来なかった。JanitaがShizukaを慰める。

朝早く乗船しては、遂にTierra Del Fuegoに上陸した僕達。そのままの勢いでテンポ良く先を急ぎたいところだったが、Shizukaがいつもの状態でない事にPabloは気付いていた。

彼女は、だいぶ前から右膝に痛みを感じていたままペダルを漕ぎ続けていた。「そのうち治る」と、軽視している内に悪化させてしまったのだ。Pabloの誕生日を"FIN DEL MUNDO"で祝いたい、その為に残された日数はそう多くない、というのが彼女に無理をさせていたのかもしれない。


OriolはShizukaの重い荷物を自分の自転車に積んだ

また、彼女は素晴らしい笑顔の持ち主なのだ。どんな状況でも笑顔を絶やすことはなく、それには皆が驚くばかりなのだが、しかし今回は誤解を招いてしまったとも言える。「痛みを隠している」と、思われても仕方なかった。
「僕の旅は残り少ない。けれど、Shizukaの旅はまだ始まったばかりなのだよ」


◎第6話「somos juntos!!」
1月28日【Bersovio El Covacio - Onaisin分岐点】54.07km



僕達は忘れていた。Janitaが自転車旅行歴未だ1週間だということを。そして彼女にとっては、今ルートが初めてのLipio(未舗装路)だということを。

急な下り坂をブレーキもかけず降りては、バランスを崩して転倒。頭を砂利道に強打しては額から血が流れている。

僕達5人は突然にして、二手に別れることに。PabloはJanitaに付き添い、昨日来た道を戻る様にして病院へ向かう。残りの3人は後ろ髪を引かれる想いのまま前へ進んだ。

何時、何処で再会出来るかもわからないままに。

けれどJanitaは、その日の内に診察治療を終えてはヒッチハイキングで前に進んでいた仲間の元へ戻ってきたではないか!


以前から彼女は、Shizukaの膝を気遣ってはこう声を掛けていた。
「Somos(私達は)、juntos(一緒なんだよ)」




◎第7話「la planeta es redondo」
1月29日【Onaisin分岐点 - San Sebastian国境】57.12km



「coooñññño〜!(ちくしょう!)」
早朝から。どうしたPablo?
「昨日、Janitaの通院に付き添った後のヒッチハイクした車中に、自転車とトレーラーを接続している部品を忘れてきてしまった。これじゃ、マリオネットを運べない」

ヒステリックになるPabloの横でJanitaが俯きながら「私のせいだ」と、涙ぐむ。

Oriolが持っていたネジをPabloの自転車に代用。けれど、何だか今日はパッとしない。
Shizukaは膝痛。Janitaは昨日の傷も痛々しく、しょんぼりしたまま。


OriolとTomokiの自転車からは揃ってノイズが鳴り出した!


自転車整備&ついでに昼食も済ませ、また走り進んでいると…



3頭の馬と、何匹もの犬を引き連れたgaucho(pampaを仕事場とする牧童)に出逢う。



彼は僕達にビールと煙草を振舞い、笑いながらこう呟いた。

「la planeta es redondo(地球は丸い). La vida es ruleta(人生はマグレだ)」


◎第8話※無題・写真のみ
1月30日【San Sebastian - Rio Grande30km地点】119.12km


国境からRio Grandeも通り過ぎて。今日は良い走りっぷり!


けれど、FIN DEL MUNDOまで残り僅かということは…


皆で走る日も、残り僅かということ。




2015/01/21

1/12 〜 1/21

◎1月12日 - 14日
【El Carafate 】
カラファテでは、クライマーやハイカーの為に寝床を解放している"La Cueva"で過ごす。実際世界に出てみると、日本で調べていた情報とヨーロッパのサイクリスト達から得る情報が違っていて面白い。
12日は、大先輩チャリダーのワタルさんと念願の再会を果たす。パラグアイのアスンシオン以来の再会。当時、何の知識もなかった自分達の為に資料を作っては持たせてくれた。サンティアゴではそれを片手に日々、自転車屋に通ったものだ。近況報告やこの先の情報交換をしながら、夕食を振舞ってもらった。お互い向かう方向は違うけれど、同じように自転車で旅をするワタルさんの存在というのはとっても心強い。



◎1月15日
【El Carafate - 75km地点】80.69km
15時を過ぎての出発。Ruta40の合流地点まで来た道を戻る、前回悩まされた風を今日は味方につけて。穏やかに続く坂を登ってからは、南に進路をとるにつれて横風になり、どんどんペダルが重たくなっていく。分岐点まで行けば建物があると聞いていたもののすっかり日が暮れてしまい、結局数kmほど戻った橋の下でテントを張った。






◎1月16日
【75km地点 - Tapi Aike 】86.10km
El Cerritoの分岐点からは少し久々の未舗装路。途中までは、こういうパンパには未舗装路のが似合うね、なんて余裕綽々で言ってたけれど前言撤回。半分を過ぎてからはゴロゴロした石ばかり、方向を変えるにも迂闊にハンドルを切れない。日没とともにTapi Aikeに着き警察署の庭にテントを張らせてもらった。








◎1月17日
【Tapi Aike - 31km地点 】31.16km
ギアの調子が悪く修理を試みるも上手くいかず、なんとか走れるようになったのは午後を過ぎてから。こうなりゃ今日はとことんのんびり行こう、と出発前にカフェをたしなむことに。するとこの近くに仕事に来ていた親子から、鶏肉&ポテトサラダ&果物の差し入れ。集落も少ないこの地域では警察署がちょっとした憩いの場のようだ。少し走って森を見つけては、ぽつりと建つ藁小屋の前で就寝。明日は早起きして今日の分を取り戻そう!








◎1月18日
【31km地点 - Rio Turbio Mina】55.82km
8時過ぎに走り出して1kmもしないうちに、ふと見覚えのある自転車と人影が…。プンタアレーナスで再会を、と一度別行動をとったPabloだった。こんなに早く再会できるとは驚いた。話によると、立ち寄る家や出逢う人々が口を揃えて「ついさっき日本人が来たところだよ」と言うもんだから、それが原動力となったようだ。Rio Turbioで食材を調達してから国境前でキャンプをした。チリに持って入れない野菜やお肉、ついでにワインで再会を祝った。












◎1月19日
【Rio Turbio Mina - Puerto Natales】
アルゼンチンのイミグレを越えてからは下り坂が続き、チリを懐かしむようなのどかな風景を堪能したあとは、一気に交通量が増えて排気ガスだらけの道路を抜けプエルトナタレスに到着。予想以上に街はツーリスティックで、特にplaza(公園)は緑が多く居心地が良い。Pabloの友人であるJanita(ハニータ)の家にお邪魔することになった。





◎1月20日 - 21日
【パイネ国立公園 Puerto Natales】
ガイドの仕事をしているJanitaのお誘いでTorres del Paine National Park(パイネ国立公園)へ。多くの観光客とつねに挨拶を交わしながら、数十メートルごとに丁寧に建てられた看板に沿って皆が同じルートを目指す。キャンプサイトを埋め尽くす程のテントの数、石鹸付きの水洗トイレ…思わず違和感を感じずにはいられない。Base de Las Torresで目の前に広がる壮大な景色を堪能しながらも、先日のロングトレッキングは凄い体験だったと改めて感心。
さて、翌日からは僕達3人の猛烈なラブコールにより何とJanitaも加わり旅が始まる。たった2日間でOrtliebサイドバッグとTubusキャリア、その他諸々を完璧に入手できるとはさすが!








2015/01/11

Venga! Fernando!!



◎1月7日
【El Chalten】
いよいよ明日、出発だ。此処El ChaltenからEl Calafeteまでは約230km。3日で着けるだろう。

サイクリストに無料で寝床を提供しているFlore家での最後の夜。Floreの母、Anaは今日も僕たちの為に料理の腕を奮ってくれた。今夜は、クレープ生地に小松菜を包みホワイトソースとチーズをかけてオーブンで焼いてくれている。ここでの約10日間。FloreとAnaは本当に優しかった。僕たちのわがままを全て飲み込んでくれたし、何でも与えてくれた。

Anaの手料理とビールを囲んでいつにも増して盛り上がる夕食のひと時。

その最中、いつの間にからか「じゃあFernandoも一緒にEl Calafateまで行こうか」ってな感じに話が膨らみ始めた。

可愛い子には旅をさせろってわけだけれど…本当に連れて行くの?

大丈夫か?



僕達がここに来てからは10日しか経っていないし、その間に4日間のトレッキングにも出ていた。だからFloreの息子Fernando(以下Fer)の事は大して知らないのだけれど、それでもとりあえず彼がどんな子供かというと、11歳の小太りでとっぽい感じ。外でより家の中で遊ぶのが好き。ひとりで人生ゲーム(ボードゲーム)をして盛り上がっているからね。得意なことはお母さんやおばあちゃんが作った料理を採点評価すること。

内気な子。本当に内気な子だ。



夕食後、Pabloは落ち着きを取り戻した台所の円卓にFerを呼んで2人だけで最終面接を行った。Ferの荷物や明日からの3日間の食糧は僕たちが運ぶから心配ない。それより寒さを凌がなければならない。向い風の中でも進み続けなければならない。雨が降るかもしれない。暗くなる前に野宿ポイントを探さなきゃならない。
聞いたらFerは自転車には1時間以上乗ったことはないらしい。それは普通だとしても、まずいのはスポーツ大嫌い。

Pabloも相当迷った。しかし彼は乗り気だった。

僕達は4人で出発することになったのだ。


◎1月8日
【El Chalten - Estancia San Joaquin】32km



翌朝、彼はレゴの人形を持っていた。夜、キャンプしながら遊ぶんだって。

けれど出発して早くも10km時点で彼はバテている様子。おいおい、まだ50kmは進まなきゃいけないんだぞ。Pabloが長距離を走るコツを丁寧に伝えても言うことを聞かない。がむしゃらにこいでは休んで、またがむしゃらにこいで休んでの繰り返し。立って漕いで座って漕いでと姿勢も落ち着かないし、アスファルトを外れて砂利道を無駄走り。こりゃダメだ。



早めに休憩をとって、Ferのやる気を再確認すると、「走る」って言う彼の口はとんがっている。Pabloが僕に相談してきた。
「無理かも。この後もこんな感じだったら明日ヒッチハイクで帰すという考えも浮かび始めている。勿論、Ferには諦めて欲しくない。けれど無理に走らせたくはない。自転車に乗ることを苦痛に感じたままに終わらせるのは、避けなければ。」

決断するには早過ぎる。けれど、するなら早い方が良い。だってこの先、パンパ(Aregentinaの草原地帯)には何も無いから。一面に広がるピンチャ(草原に生える刺々しい雑草。パンク、テント破れの原因となる)と吹き荒ぶ強い風は、テントを張ることを簡単には許してくれない。この辺りには川が無いから飲み水の確保も大変だ。



休憩後のFerはよく頑張った。細かい休憩を何度も挟んだというのも功を奏したのだろう。21時を過ぎてからポツンと現れた農家の敷地内でテントを張ることが出来た。
夕食の最中、彼は木登りしながらレゴで遊んでいた。


◎1月9日
【Estancia San Joaquin - Luz Divina】60.99km



出発から風に押され気持ち良く25km駆け抜けたというのに、Ferは「景色も道も単純でつまらない」とボヤく。けれどRuta40に入った途端の強烈な向かい風には5kmも進まない内に音を上げてしまう。
El Calafate迄の唯一の食糧補給場所と見込んでいた場所でも、望んでいた食糧は調達出来ないまま今日の走行は切り上げ。今夜は元々レストランだったであろう廃屋で夕食就寝。



廃屋に着いてからのFerはとても活発だった。汚かった部屋を掃除してベッドや木の板を運んでは食事テーブルを作ってくれた。壁に皆の名前と今日の日付を記したりもした。僕たちにも慣れてきたんだろう。随分と彼のほうから話しかけてくれるようになったし、途中から現れたフランス人のヒッチハイカーにも積極的に話しかけているFerを僕は強く記憶している。




◎1月10日
【Luz Divina - Ruta11沿い】78.88km



Pabloは常にFerに付き添って走っては、最も近い距離から彼のことを見守り続けていた。そして元々、彼はFerの家族事情にそれなりの興味を抱いていたみたいだ。彼の家族構成・環境が複雑なのは僕もわかっていた。
「お父さんはどうした」と尋ねてみる。
「会ったことはない。遠くの街に住んでいるのは知っているけれど…良く知らない」
Ferのお母さんもお婆さんも底知れない優しさの持ち主だ。行動的で、話し好きな人達だ。だからこそ、僕たちはFerに対してひとつの疑問を抱いたままだった。
なぜ、彼女達とFernandoはこんなにも異なっているんだ、と。

Pabloは言う。
「僕にも全てはわからない。けれどFerの眼は何かに怯えているかのように僕には映るし、既に心の中に何かしらの不安要素を抱えていると思う。学校か、または他のどこかで虐めらていた経験もあるのではないか」と。

時刻は20時。この日の走行距離は既に60km、El Calafateまで残り30kmも、ここからは強烈な向かい風だから今日到着するのは不可能。それでも食糧がもうすぐ底を尽きるから遅くとも明日の昼過ぎには到着したい。だから、もう少し走っておきたい。PabloはFerにもうひと頑張りしてもらおうと、ここまで走りを褒め讃えながら奮起を促す。Ferは笑顔で、再び自転車に跨った。



けれど彼は既に限界だった。
もう走れない。
けれど戻っても何かあるわけじゃない。

強風に煽られながらテントを張れる場所を探すべく、道路の両側至る所に目を配る。
左側、遠い向こうに農家らしき建物と風を凌げるであろう数本の木が立っているのが見える。けれどあまりにも遠すぎる。また暫く進み続ける。何も見えてこない。
Ferが自転車から降りた。我慢出来なくなったのだ。サングラスを外し、手を膝に置いては少し屈んだ。
泣いている。



結局、この日僕達はテントを張る場所を見つけられなれないまま、最終的には道路脇下、土管型の側溝を選んだ。その中で料理をして、眠った。
Ferは埃アレルギーを持っていて、その夜は本当に酷い咳き込み具合だった。僕は、彼の為に何も出来ないことを悔やんだ。側溝の中で、埃と寒さに耐える彼の咳の音を聞いていると、彼にとってのこの4日間の自転車旅行は果たして本当に彼の為になったのだろうかと、ついつい思わざる負えなかった。
梓朱花は「そっとしておくのが1番」と、それだけだった。彼女は僕より冷静だった。




◎1月11日
【Ruta11沿い - El Carafate】21.44km
朝8時、土管から這い出る。今なら幾分風が弱いから、その間に残り僅かな距離を走り切ってしまおう。いつまでも側溝の中に居たくもないしね。
El Calafate前の最後の登り坂。また自転車から降りるFer。「しょうがねえなぁ!」って具合にPabloが右手一本でFerの自転車を掴んでまま、自分の自転車を漕いで坂を上がり切る。





全く、気が気じゃない4日間だった!
El ChaltenからEl Calafateまでをこんな風に走るだなんて。


街に入った直後、タクシーに乗ったFloreとAnaとすれ違う。彼女達は既に昨日、El Calafateにバスで入っていたのだけれど、到着の遅い僕たちを心配して様子を見に行くところだったのだ。
自転車を道端に置くFer。タクシーから降りるFloreとAnaがFerを抱き締めた。また泣きべそかいてさ。

よくやったじゃないかFernando。